大人の発達障害の受診や診断について、あーる母さんによる体験談や解説です。
このシリーズでは、成人後に障害の診断を受けた「あーるさん」のお母さんが、大人の発達障害・知的障害と利用できる支援を紹介しています。
まずは診断を
過去に受診したっきりや未受診の【発達障害疑い】の人は、まずは精神科を受診して『発達障害かどうか』と『現時点で支援が必要か』の診断を受ける必要があります。知的障害の有無もその過程でわかります。
診断の結果が発達障害でもそうでなくても『困難が大きくて支援が必要』と医師が判断すれば、何らかの公的・福祉的支援はあります。
ただ、どの支援を受けるかは自分で判断して申請しなければなりません。障害の診断が下りても、自動的に支援のサービスを受けられるわけではなく、本人が自分で手続きするのは難しいと感じました。
病院探し
昔に比べれば発達障害の診断ができる医療機関は増えていますが、精神科は混雑して予約が取りづらいところも多いです。心理士がいたり発達障害を診てくれる精神科でも、カウンセリングや投薬だけで、診断のための検査には対応していないところもあります。
うちの場合は相談機関で検査のできる病院をいくつか教えてもらい、電話した中で唯一予約が取れたところに決めました。
県内の医療機関はかながわ医療情報検索サービスというHPで探せますので、通えそうな精神科を検索して『発達障害の診断ができるか』直接聞いてみてもいいと思います。
病院のクチコミはあまり気にしない方がいいです。特に精神科はメンタル弱った人が書き込みますから…。あーるの病院は通院後にクチコミを見ましたが、そこまでひどくもないのに評判悪くてびっくりしました。
時間と費用
時間
子どもの頃は成長による変化もあって診断名が何年も決まらないこともありますが、成人後はそこまでではないみたいです。
それでも、診断には時間が掛かることを覚悟した方がいいです。医師の診察と心理士の検査、それぞれを予約して結果がわかるまで、検査内容や混み具合によっては何ヶ月も掛かります。
また、診断が下りてもすぐに年金や手帳の手続きはできません。申請用の診断書は初診から一定期間経たないと作成できず、その後依頼して書いてもらうのに数週間〜数ヶ月掛かります。さらに役所で申請してから3-4ヶ月掛かり、審査に落ちることもあります。
費用
診断に使われる検査の多くは保険診療の対象ですが、自費でしか受けられないものもあります。
また病院によっては、保険対象の検査でも、特に時間や手間の掛かるものは自費にしていることがあります。費用が心配な場合は、事前に電話等で確認することをお勧めします。
発達障害の検査には、知能検査のWAIS-Ⅳが行われることが多いです。保険診療だと1,350円ですが、自費診療のところだと1-2万円掛かり、その分詳しい説明があるようです。
なお、WAIS-Ⅳだけで診断されるわけではありません。心理検査は医師の診察の補助として行われます。
あーるの病院では診断書以外すべて保険診療の対象でした。3割負担で、初診は3,000円程度、検査は複数を組み合わせて合計5,000円程度、その後の診察は1回1,500円程度でした。
申請用の診断書は所定の書式で文書料が高いです。病院によって差がありますが、年金診断書は1通10,000円程度、手帳などの診断書は5,000円程度が相場のようです。
保険診療の医療費は無税ですが、自費の医療費や文書料には消費税10%が掛かるので注意しましょう。
受診前の準備
医師の診察時間は限られます。スムーズにやり取りできるよう、【生育歴】と【現在の困りごと】をまとめてプリントして持って行くといいです。
診断や治療方針は医師によってかなり違いがあり、特に精神科では医師との相性が重要なので、複数の医療機関を受診する方もいるようです。
別の病院に掛かる時や、今後さまざまな相談機関に行ったり、支援を申請する時にも、ここでまとめたものは役立ちます。多少時間を掛けてでも、しっかりと作っておくことをお勧めします。
『できないこと』を羅列するので、普段子どもの良いところを見ている親としては、きつい部分もあります。『本人の生きづらさを代弁して、必要な支援を受けるため』と割り切るしかないです。
まとめたものは、あーる本人にも見せて確認しました。『できないこと』を医師に言うのは悪口ではなく診察に必要な情報だと、診察前に説明しています。
生育歴
生まれてから今までの様子をライフステージごとにまとめます。
特に家族以外の意見や客観的なデータが重視されていたようです。
現在の困りごと
特に下記の8項目について書き出すことをお勧めします。
各項目に誰かの手助けなしで一人暮らしできるかどうかが、年金や手帳の判断基準になります。
手伝ったり声を掛けてもらわないとできないことは、きちんと書いておきましょう。
- 適切な食事
極端な偏食や過食・拒食がなく、適切な時間に食事ができるか。
栄養バランスを考えて、食べたいものを選べるか。
調理、配膳、外食や弁当購入など、自分で食事の準備や後片付けができるか。 - 身辺の清潔保持
洗面、排泄、入浴、整髪など身体の衛生保持、適切な衣類を選んで着替えられるか。
掃除や片付けができるか。 - 金銭管理能力
金銭の価値を理解し、自分で管理してやりくりできるか。
自分で選んで必要なもの・欲しいものが買えるか。
店員とやり取りして一人で買い物できるか。 - 通院・服薬
体調を自分で判断して、規則的な通院や服薬ができるか。
主治医に病状や副作用をうまく伝えることができるか。 - 意思伝達・対人関係
他人の話を聞いたり自分の意思を相手に伝える能力があるか。
集団行動、場に合う言動、他人と適切に付き合うことができるか。 - 安全保持・危機対応
危険性を理解し、危険な物事や自傷から身を守る能力があるか。
火の始末、刃物の使用、戸締りなどが適切にできるか。周囲に注意して移動できるか。
通常と異なる事態でもパニックにならずに他人に助けを求めるなど、適切な行動ができるか。 - 社会的手続・公共施設や交通機関の利用
銀行や電車、バス、公共施設を一人でマナーを守って利用できるか。
書類申請など社会生活に必要な手続きが行えるか。 - 文化的社会的活動への興味・関心・参加
新聞やテレビのニュース、趣味や娯楽に関心を持っているか。
余暇活動、地域のイベント等に参加しているか。
診察
うちでは親子一緒に診察を受けました。最初に親が資料に沿って状況を説明し、その後は医師と本人が会話しました。医師は、あーるの受け答えの様子や話す内容を見ていたようです。
ここで特性や困りごとが医師にうまく伝えられるかどうかが重要です。
検査
知能検査WAIS-Ⅳの他に、親の聞き取り検査、アンケート形式のチェックシート、性格検査など5-6種類受けました。検査の組み合わせは病院や人によって違うようです。
診断
発達障害
発達障害の診断は、診断基準の項目が複数あって『N個以上に当てはまれば障害、それ以下なら障害ではない』というようなものです。基準より上ならば、重くても軽くても『当てはまる』とされます。医学的に発達障害の重さを測る基準はないようです。
例えば、ABCDの4つの項目のうち3つ以上が条件だとして、ABCがぎりぎり基準の上なら障害になりますが、ABの2つが強い症状でもCDが基準以下なら障害ではありません。障害だから症状が重いとか、グレーゾーンだから軽いとは限らないわけです。
検査の各項目の偏り方、検査や診察中の様子、特性の現れ方、生活上の支障の程度など、総合的に判断されます。医師の判断次第ですから、病院によって診断が違うこともあり得ます。そのため、複数の病院で診断をお願いする方もいるようです。
知的障害
知的障害の場合は、知能検査によるIQの値という基準があります。ただし、IQはその時の体調などにより数値に結構ブレがあります。
現在の診断基準では、IQだけでなく、適応機能(日常生活能力、社会適応など)も合わせて判断します。知的障害の重症度は、適応機能の程度により、軽度、中等度、重度、最重度に分類されます。
実際には医療機関で適応機能を調べるのは難しいので、ほぼ問診と知能検査の結果で判断されているようです。
どちらの場合も
幼少期から症状が現れていること、他の病気では説明付かないこと、日常生活や仕事に支障が起きていることが診断の必須条件になります。
特性が強くても大きな問題もなく生活できていれば、『障害ではない』のです。環境が変化して適応できなくなると、『障害がある』と診断が変わることもあります。
なお、『自分に発達上の特性があるかどうか知りたい』というだけの理由で受診しても、障害の診断はされない可能性があります。診断は『治療や福祉に繋がるために行われるもの』だということなのでしょうね。
投稿者:あーる母
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